第六回 大軍拡

 二〇二五年現在、日本は国際関係の中で経済成長する蓋然性を掴み取ろうと必死だ。
 対北朝鮮反撃能力を拡充して台湾有事を抑止したい気持ちはわかる。中国が台湾に進軍した際、北朝鮮が日本にミサイル攻撃を仕掛けることで、アメリカ軍を日本方面と韓国・台湾方面の二手に分けさせる作戦が想定される。このことがテレビで報道されたり、新聞記事に載ったりした。およそ二〇二三年頃から不安の種が、容赦なく民間人にも配布されている。専門家の間で取り沙汰されたのは、もう少し前のようだ。
 中国にもタカ派がいて、であればタカ派中のタカ派もいるだろう。台湾など今すぐ瓦礫にせよと言う高官は絶対いるはずだ。日本に対しても、いつか占領してやろうと思っている高官は絶対にいる。
 朝鮮、ベトナム、シリア、アフガニスタン――たとえばこれらの国々に共通するものは何か。それは、アメリカとロシアの両国から接近され、軍事支援を受けたことだ。対立する二つの大国から同時に接近された国の末路は凄惨たるものだ――軍事政権の発足。分裂。治安は悪化し、テロリストは蔓延る。慢性的に内戦の最中にあるようなもの。行き先は様々だが凄惨な末路と言わずして何なのか。
 日本が大軍拡をする理由は、対立する米中の二国間に挟まれたまま、国際関係上の 弱者にならないようにするためだ――しかし、この考え方は軍拡派の会派(政治政党)によって詳細が異なる。「東アジアに巨大な経済圏をつくって経済成長を模索する。そのうえで軍拡は護身用の銃だ」という会派もある。「アメリカは日本の絶対的同盟国だ。最大限譲歩する相手はアメリカだ」と言って、アメリカ主導の東アジア安全保障政策――そのための大軍拡を、進めるべきだとする会派もある。日本企業が、米中両方にレントシーキングできるように軍事力を増強すべきだとする会派もある。
 軍拡反対派の会派も二つ紹介する。ならず者国家としての顔を持つ中国を、アセアンに包摂して対話によって緊張緩和すべきだとする会派がある。もう一つは、「日本の外交努力とアメリカの外交努力は全く別物なのだから、言いなりになるな。軍拡は東アジアにおける護身用の銃とは誤解だ、かえって怒らせるだけだ」という会派がある。
 大軍拡の意味と目的は、政治政党の間でも異なる認識で語られ、語られたうえで賛成・反対が論じられる。その有様と同様に、有権者の間でも認識は様々だ。「チャンコロをブチ殺せ」と言う愚連隊まがいの者もいれば、もっと賢明な認識の者もいる。
『沈黙の艦隊』という漫画ではないが、北極海の氷の下に日本の潜水艦が待機することは、国際法上の違反ではない。これが米露対立のキャスティングボードを握っているのは想像に容易い。言っている意味がわからない人は世界地図を素直に見過ぎだ――あの二つの大国は北極海を挟んで南北に対峙している。
 世界の海の大部分は公海で、平和目的であれば、どこを航行してもいい。日本の潜水艦は世界トップクラスの技術水準であり、要するに強い。潜水艦は海洋国日本の明確な強みだ。
 あまり知られていないが海上自衛隊は、機雷の除去作業などで国際貢献をする。一九九一年四月から十一月まで、海上自衛隊は「ペルシャ湾掃海派遣部隊(湾岸の夜明け作戦)」として、掃海母艦や掃海艇など艦艇六隻・隊員約五一一名をペルシャ湾に派遣し、湾岸戦争後に敷設された機雷の除去を実施した。これは自衛隊として初の海外での実任務だった。
 ミサイル防衛システムにせよ、自衛隊員にせよ、量的な議論は素人には無理だ。どれくらい必要かなど正確に知る人はいない。左派の言い分は、国民生活を鑑みた時に、血税の増税で軍事予算を組むことが、もはや非現実的だと言いたいのである。左派は、自分の知っていることを叫んでいる。野党の軍拡派は、知らないことを想像で埋めている。与党は国民の痛みを知らない。
 そもそも、軍事インテリジェンス――国防の専門家でもない一介の市民が「戦争が起きるかもしれないから」などと議論する時点で大変に危うい。「戦争に行きたくない」と言うべき身分が、それを言わないのは非常に危うい。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA