近年、社会問題化している「ブラック企業」とはどのような企業を指すのか、またその背景には何があるのかについて考察する。ブラック企業とは、労働者を過度に酷使し、不当な条件下で働かせる企業である。具体的には、異常な長時間労働や残業代の未払い、大量採用した正社員を選抜の名のもとに退職へ追い込む行為などが挙げられる。このような企業は、労働を単なる生産要素やコストとしてのみ捉え、労働者の生活や人間的価値を軽視している。労働者が生活を維持するために働いているという基本的な視点が欠けている点で、社会的問題となっている。
ブラック企業の問題がここまで広がった背景には、いくつかの要因が考えられる。第一に、1990年代から続く非正規雇用の拡大がある。不況下で企業が正規雇用を避ける傾向を強めた結果、福利厚生が充実した正規雇用を求める労働者が、不利な条件下でもやむを得ず受け入れる状況が生じた。これにより、企業側は労働者を生産要素として扱うことに慣れてしまい、その結果としてブラック企業が台頭した。
第二に、バブル崩壊後の長期的不況が要因として挙げられる。不況下で台頭した低価格サービス業は、低価格競争を維持するために人件費の削減を進めざるを得なかった。この過程で、低賃金と長時間労働という労働条件の切り下げが進行した。一方で、失業率の上昇や労働市場の買い手市場化により、待遇が悪くても職を求める労働者が増えたことで、ブラック企業は労働者を選びやすい環境となった。
さらに、労働市場への「フリーライド」という観点からもブラック企業を理解することができる。健全な企業は、労働者の能力開発に投資し、彼らを再び労働市場に送り返す。しかし、ブラック企業はこの責任を果たさず、労働者を酷使して疲弊させたまま市場に戻す。このような振る舞いを行う企業の出現は、不況や業界の構造的問題に起因している。特に、高い能力を要しない業務が多い業界では、労働者の能力開発にかかるコストを回収できないため、ブラック企業化しやすい傾向がある。介護や運輸といった業界がその例であり、高齢化による需要増加や参入規制の緩和などの要因で、これらの業界ではブラック企業の割合が増加し、ブラック業界化が進行している。
一方で、ブラック企業の問題が高度経済成長期から存在していたことも指摘される。この時期には長時間労働や過労死が問題となっていたが、当時の労働者にはそれに見合った見返りがあった。しかし、現代では見返りが乏しく、労働者の生活が潤わない状況がブラック企業問題の深刻化を招いていると考えられる。
結論として、ブラック企業の広がりは、労働者の生活や社会的価値を軽視した企業経営が、不況や雇用の流動化、業界構造の変化といった複合的な要因により助長された結果である。この問題を解決するには、企業が労働者の生活に配慮した経営を行い、社会全体で労働環境を改善する取り組みが求められる。また、法規制や監督の強化、労働者教育の充実を通じて、ブラック企業に依存しない働き方を選べる社会を構築することが重要である。
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